
2008年02月29日
悪夢(その2)
わが国は、ベイ国と北壌国の和平交渉の可能性を水面下で探っていたが、一旦、有事に突入してしまえば、何の役にも立たない存在だった。
特に、政府と与党・自戒党の指導部は決断力に欠け、ベイ国と北壌国のどちらかを選ぶことさえできなかった。それだけならまだしも、指導部は率先して王宮広場の地下にある広大な核シェルターに逃げ込み、多くの国民が犠牲になるのをただ黙ってみている間抜けな存在だった。

首都・西京は壊滅状態となり、関崎平野を火の海に変えた。ただ、俺を含めて、ごく一部の人間は生き残った。そのほとんどは、2027年春、政府が極秘裡にはじめた『バーチャル世界移住プロジェクト』に参加した者たちだった。

実験に参加した俺たちは、王宮広場の核シェルターの奥深くに設置された極秘プロジェクトのラボで世間と隔絶されて1年間を過ごしていた。
朝から晩まで、俺たちは特殊なカプセルに押し込められ、栄養分を含んだ液体が定期的に俺たちの体に注入される。この特殊なカプセルは、様々なバーチャル世界と連結され、脳内で生成される思考や動作がすべてバーチャル世界に反映される仕組みになっている。

俺たちに与えられた自由は、好みのバーチャル世界を選ぶことぐらいだった。俺は、迷わずSLを選んだ。SLは、俺がはじめて、そして唯一過ごしたことのある世界だったからだ。
プロジェクトに参加した人間の多くは、国産のバーチャル世界を選んだ。その理由は簡単だ。わが国の人間がその社会での主流派で、インワールドでの仕事も見つけ易く、面倒がないからだ。
俺のようにSLを選んだのは少数派だったが、SLの仲間はインワールドをよく理解した古株ばかりで、もめごとに上手く対処し、処理することに慣れている。なにより、ワールド・ワイドな世界であるSLが俺は気に入っている。

俺の仕事はフリーライターだ。ライターと言っても、いまはエロ雑誌専門だけど。
クリエーターとしての才能も技術もない人間が、SLで生きていくのはそれなりに苦労があるし、薄給に甘んじるしかない。ただ、SLでの生活に多くの金が必要なわけでもない。いまのところ、RLからの栄養補給は十分だし、水道光熱費がかかるわけでもない。

昨日は、ベイ国で生き残った住民たちがやっているSMショップへ取材に行ってきた。彼ら曰く、「自分たちの魂は25年も前からSLにあるし、RLの自分がどうなっていようと関係ないことさ。自分たちの世界がどこであれ、自己を表現できる場所が存在することに価値があるんだよ。」

俺も、もっとクリエイティブな仕事をやりたいと思う。SLの世界へ来たときから、ずっと考えていたことだ。しかし、RLの仕事が忙しいとか、SLで遊ぶ時間が足りなくなるとか、いろんな理由をつけて、結局、20数年も怠惰なSL生活を送ってきた。

この先、RLの俺がどこまで生きられるかもわからないが、インワールドでしか生きられなくなったいま、もう一度、自分の第二人生を見直すべき時期に来ているのかも知れない。
(つづく、 ・・・とは思えない( ̄- ̄=)あぁ…)
特に、政府と与党・自戒党の指導部は決断力に欠け、ベイ国と北壌国のどちらかを選ぶことさえできなかった。それだけならまだしも、指導部は率先して王宮広場の地下にある広大な核シェルターに逃げ込み、多くの国民が犠牲になるのをただ黙ってみている間抜けな存在だった。
首都・西京は壊滅状態となり、関崎平野を火の海に変えた。ただ、俺を含めて、ごく一部の人間は生き残った。そのほとんどは、2027年春、政府が極秘裡にはじめた『バーチャル世界移住プロジェクト』に参加した者たちだった。
実験に参加した俺たちは、王宮広場の核シェルターの奥深くに設置された極秘プロジェクトのラボで世間と隔絶されて1年間を過ごしていた。
朝から晩まで、俺たちは特殊なカプセルに押し込められ、栄養分を含んだ液体が定期的に俺たちの体に注入される。この特殊なカプセルは、様々なバーチャル世界と連結され、脳内で生成される思考や動作がすべてバーチャル世界に反映される仕組みになっている。
俺たちに与えられた自由は、好みのバーチャル世界を選ぶことぐらいだった。俺は、迷わずSLを選んだ。SLは、俺がはじめて、そして唯一過ごしたことのある世界だったからだ。
プロジェクトに参加した人間の多くは、国産のバーチャル世界を選んだ。その理由は簡単だ。わが国の人間がその社会での主流派で、インワールドでの仕事も見つけ易く、面倒がないからだ。
俺のようにSLを選んだのは少数派だったが、SLの仲間はインワールドをよく理解した古株ばかりで、もめごとに上手く対処し、処理することに慣れている。なにより、ワールド・ワイドな世界であるSLが俺は気に入っている。
俺の仕事はフリーライターだ。ライターと言っても、いまはエロ雑誌専門だけど。
クリエーターとしての才能も技術もない人間が、SLで生きていくのはそれなりに苦労があるし、薄給に甘んじるしかない。ただ、SLでの生活に多くの金が必要なわけでもない。いまのところ、RLからの栄養補給は十分だし、水道光熱費がかかるわけでもない。
昨日は、ベイ国で生き残った住民たちがやっているSMショップへ取材に行ってきた。彼ら曰く、「自分たちの魂は25年も前からSLにあるし、RLの自分がどうなっていようと関係ないことさ。自分たちの世界がどこであれ、自己を表現できる場所が存在することに価値があるんだよ。」
俺も、もっとクリエイティブな仕事をやりたいと思う。SLの世界へ来たときから、ずっと考えていたことだ。しかし、RLの仕事が忙しいとか、SLで遊ぶ時間が足りなくなるとか、いろんな理由をつけて、結局、20数年も怠惰なSL生活を送ってきた。
この先、RLの俺がどこまで生きられるかもわからないが、インワールドでしか生きられなくなったいま、もう一度、自分の第二人生を見直すべき時期に来ているのかも知れない。
(つづく、 ・・・とは思えない( ̄- ̄=)あぁ…)
2008年02月28日
悪夢(その1)
2030年2月28日(木曜日) 晴天 気温21℃ 湿度50%
今日も、朝日の眩しさに目が覚めた。
誰がなんと言おうと、SLの世界は、俺にとっての快適空間だ。もう、このまま一生を終えても後悔はしないだろう。

夕べも、朝7時に天候目覚まし時計を合わせた。いつもと同じく、天気は快晴、気温は21℃、湿度50%にセッティングしてベッドに潜り込んだ。
雪景色を眺めながら目覚める日もあったが、気温零℃は俺の脳を萎縮させ、その日は1日中、どうも具合が悪かった。

本格的なSLでの生活が始まって、もうまる2年になる。いや、その前から数えれば3年近くを過ごしている。
2028年2月16日、韓総書記の誕生日を祝う行事が盛大に行われるなか、北壌国はついに核弾頭を積んだアポドン3号を配備した。アポドン3号は射程距離6,000Km以上を実現し、ベイ国本土を直撃する能力を有するものだった。
コリントン・ベイ国大統領は、北壌国に対して最後通牒を突きつけ、韓総書記に翻意を促したが、最終兵器を手に入れた北壌国とって、何のメリットもない一方的な譲歩はあり得なかった。

結局、ベイ軍が北壌国の首都・平朝を空爆した。北壌軍も7日間応戦したが、ベイ軍の圧倒的な戦力とIT技術を駆使した巧みな戦略に抵抗しきれず、最終兵器を使用する決断をしたのだった。
そして、RLの世界は核の闇に覆われた。

(つづく)
今日も、朝日の眩しさに目が覚めた。
誰がなんと言おうと、SLの世界は、俺にとっての快適空間だ。もう、このまま一生を終えても後悔はしないだろう。
夕べも、朝7時に天候目覚まし時計を合わせた。いつもと同じく、天気は快晴、気温は21℃、湿度50%にセッティングしてベッドに潜り込んだ。
雪景色を眺めながら目覚める日もあったが、気温零℃は俺の脳を萎縮させ、その日は1日中、どうも具合が悪かった。
本格的なSLでの生活が始まって、もうまる2年になる。いや、その前から数えれば3年近くを過ごしている。
2028年2月16日、韓総書記の誕生日を祝う行事が盛大に行われるなか、北壌国はついに核弾頭を積んだアポドン3号を配備した。アポドン3号は射程距離6,000Km以上を実現し、ベイ国本土を直撃する能力を有するものだった。
コリントン・ベイ国大統領は、北壌国に対して最後通牒を突きつけ、韓総書記に翻意を促したが、最終兵器を手に入れた北壌国とって、何のメリットもない一方的な譲歩はあり得なかった。
結局、ベイ軍が北壌国の首都・平朝を空爆した。北壌軍も7日間応戦したが、ベイ軍の圧倒的な戦力とIT技術を駆使した巧みな戦略に抵抗しきれず、最終兵器を使用する決断をしたのだった。
そして、RLの世界は核の闇に覆われた。
(つづく)