
2008年06月01日
た~さんのSL経済活性化策
足元のSL経済は停滞感を強めていますが、経済を再活性化させるためには地道な努力により、レジデントの増加を図っていくのが一番の近道であると考えられます。
経済活性化策は、(1)インフラの整備・拡充、(2)法制度と金融システムの整備、(3)コンテンツの拡大、(4)新興市場の開拓、の4つに大別できます。
(1)インフラの整備・拡充
まず、現有のレジデントをつなぎとめ、アクティブ・ユーザーを拡大させるためには快適かつ安定したアクセス環境を提供する必要があります。5月29日、SLの設立者であるフィリップ・ローズデール氏がVirtual World Conference&Expo2008において基調講演をしましたが、そのなかで彼自身も今後の課題として「使いやすさの向上」を指摘していました。
特に、ビューワーの技術開発に関しては、最新のRCに付加されたようなアバターが白い影で浮かび上がるような小手先の新機能の導入ばかりが目立ち、時間の経過とともにビューワーが重くなる問題などは一向に改善されていません。また、1SIM当たりの人数制限やSIM落ちの問題など、SL内の環境もまだまだ改善すべき余地が大きいと思われます。先端ビューワーの開発はサードパーティーに任せるべきであり、リンデンラボによる開発の重点はアクセス環境の改善を最優先課題としなければなりません。
その上で、ローズデール氏が指摘したようにアクセス方法の多様化を図ることも重要です。例えば、表示機能や動作機能を相当程度絞り込んだブラウザ専用のビューワーの開発や一部のサードパーティーが手掛けているようなモバイルビューワーの開発促進が考えられます。これら新型ビューワーでは、SL本来の持ち味である創造的な作業やビジュアルの美しさの表現などができなくなるかも知れませんが、新規ユーザーの入門窓口として、あるいは既存ユーザーの外出先での余暇時間を利用したアクセスを可能とする手段として有効なツールとなり得るでしょう。
(2)法制度と金融システムの整備
現在、米国をはじめとするIT先進国においては、仮想空間の所有権や知的財産権に関する法整備について議論はあるものの、最終的な関連法規の整備に至るまでにはかなりの時間を要することが予想されます。それを踏まえた上で、SLの仮想政府であるリンデンラボはSL内の所有権や知的財産権の保護に関して暫定条例を整備し、各種の違反行為に対して、場当たり的ではなく、統一基準に基づいて罰則を与え、インワールド内のフラストレーションをできる限り解消していく必要があるでしょう。今後、レジデントが増加するに従って、法整備の必要性は一段と高まってくるはずです。
一方、金融資本市場も経済を円滑に運営してくためには欠かせない存在です。現状ではリンデンラボ直営のLindeXを中心とした為替市場が存在するだけで、今年1月の金融規制発動以来、銀行機能は停止され、証券市場はグレーゾーンで細々と生き残っている状態です。金融機能を回復させる方策は、為替市場と同様に、リンデンラボ自身がインワールド内で銀行や証券市場を創設し、そこで同社が考える秩序ある運営をすることです。これにより、リンデンラボは新たな手数料収入を確保できると同時に、ユーザーにも安心感を与えることができ、また新たな投資機会を提供することができます。同時に、民間銀行や既存の証券市場をリンデンラボが審査・承認して管理する必要もあるでしょう。ただし、いずれの場合も厳格な管理規定を整備しなければなりません。
(3)コンテンツの拡大
リンデンラボの基本的思想は、「同社が提供するのは仮想空間のみであって、その世界を創造するのはユーザー自身である」というものです。しかし、実際には、一旦、問題が拡大し、複雑化すると、その問題を徹底的に叩き潰すという、かなり残酷な方法で封建支配しています。こうした朝令暮改の悪政が実行されている限り、レジデントが安心して暮らせる時代は訪れないでしょう。
法律が未整備な状況下であれば、リンデン党一党独裁の共産主義を選ぶべきでしょう。つまり、SL経済の基幹産業や金融システムはすべて同社、あるいは同社が認めた友好集団によって運営・管理する道を選択すべきだと考えます。
金融システムに関しては前述したとおりですが、実は現在のSLには経済を支えていくだけの力を持った基幹産業が存在せず、民間中小企業の寄り合い所帯であることが経済成長を制約する最大のネックになっています。
SLにおける基幹産業とは、キラーコンテンツだと思います。米国におけるディズニーランド、日本におけるスタジオジブリなどがSL経済へ公式スポンサーとして参入し、それぞれのドリーム・ワールドをSL内で再現するようになれば、これまで全くSLに関心のなかった多くの層を新規ユーザーとして取り込むことが可能になります。本物の、魅力ある巨大コンテンツが登場すれば、レジデントは1回100L$の入場料を支払っても利用したいと考えるかも知れません。
1日100L$以上を消費するユーザーは、必然的にリンデンラボにとって収益性の高いプレミアム・レジデントへ成長していきます。また、キラーコンテンツの登場による人口拡大は現在SL経済を支えている大多数のインワールド・ストアーの売上げ向上にも貢献するはずです。加えて、キラーコンテンツを好むユーザーは不動産市場の活性化にも貢献する可能性があります。例えば、ミッキーやプーさんのぬいぐるみの置き場所がほしい、トトロの森を自宅に再現してみたい、などの欲求が不動産購入の強い動機になるかも知れません。
今後は、リンデンラボが主導してキラーコンテンツという基幹産業を育成・発展させる必要があるのです。
(4)新興市場の開拓
最後は、非常に地味ですが有効な手段としてブラジル、ロシア、インド、中国のいわゆるBRICSを中心とした人口規模の大きい新興市場にターゲットを絞って、新規ユーザーの獲得を目指すことです。幸いにして、SLの物価水準はこれら振興市場のユーザーでも違和感なく受け入れられる程度なので、コスト面では恐らく問題がないでしょう。実際、現在でもブラジルではかなりのユーザーを獲得しています。
最も障害となるのはPCのスペックとブロードバンド環境が整備されているかという問題ですが、PCのスペックに関してはブラウザ専用のビューワーやモバイルビューワーの開発が進めば、ある程度の解決策になります。一方、新興市場のブロードバンド環境は決して充実しているとは言えません。ただ、中国の場合で考えれば、都市部のブロードバンド環境はある程度整備されてきており、都市部の2億人をターゲットとしただけでも、潜在ユーザーは少なくないと想像されます(2月26日付「2.1億人のネット事情)。今後は、SLの知名度を向上させ、その魅力を伝えていくというプロモーションをいかにリンデンラボが実行できるかではないでしょうか。
いずれにしても、SL経済の回復と更なる発展のためには、リンデンラボ自身がもっと積極的にインワールドへ関与していかなければならないと思います。
<主要国のインターネットおよびブロードバンドの普及状況>
(出所)World Bank "2007 World Development Indicators"より作成