中国の仮想世界をめぐる4つの法律問題

た~さん

2008年02月21日 00:02


最近、中国では仮想世界における経済活動をどのように定義し、現実の法律でどのように規制するかが盛んに議論されています。

先日、北京の中国人民大学では、「インターネットと法律の対話」という円卓会議が開催されました。これは、アジア太平洋インターネット法律研究センター、中国人民大学、北京市弁護士協会が共催したものです。

この会議では、SLでの事象を題材として、①仮想オブジェクトは物権か、②仮想通貨は規制すべきか、③ネット上での強姦は犯罪か、④ネット犯罪はどのように規制すべきか、などが議論されました。



①仮想オブジェクトは物権か

SLの大きな特徴は、大多数のオブジェクトが、リンデンラボ社ではなく、アバター自身によって創造されたものであることです。SL内で創作されたオブジェクトは、使用、交換、販売が可能で、アバター自身がその版権を所有しています。

例えば、SL内企業のEros社は“SexGen”という仮想セックスができるベッドを販売していましたが、昨年、他のアバターがその模造品を作製し、安価で販売するという事件が発生しました。これに対して、開発者のケヴィン・アルダーマーさんはリンデンラボ社に対して模造品を作製・販売した人間の実名を明らかにするように要求し、併せて模造品を作った本人に対して損害賠償を求める訴訟を起こしました。

(SexGen Birdseye 50 mg v5.01:5,000L$)


こうした仮想世界における知的財産権に関して、中国の専門家の間でも見解は二分しています。

例えば、北京郵電大学インターネット法律研究センター主任の劉徳良教授は、「法律上の財産とは、価値があり、真実なものを言う。英語の“virtual”は視覚上の真実を指し、実際には真実ではない。したがって、仮想オブジェクトは仮想財産ではなく、仮想物品と呼称すべきである」と述べています。

また、中国人民大学法学院知識財産権研究室主任の郭禾教授も、「仮想財産は、物権法の対象とはならず、対世権(対外的効力が広く一般人に対して及ぶ権利)を持つ存在でもない」との見解を表明しています。

その一方で、中国人民大学法学院の姚歓慶教授は、経済学的観点からこの問題を議論すべきとした上で、「広く大衆がそれを求めるならば、それを財産と認めるのは当然であり、法律でその権益を保護するのは当たり前のことである。どの程度の保護を与えるかはまた別の次元の問題である」として、SLにおける知財権を擁護する発言をしました。


②仮想通貨は規制すべきか

05年末、リンデンラボ社はリンデン・ドルを導入し、それを住民間の商取引に使用できるようにしました。住民はクレジット・カードでそれを購入することが可能であり、為替レートは市場で刻々と変化しています。

特に、06年11月、リンデンラボ社がリンデン・ドル相場をサイトで公表するようになって以降、仮想通貨と仮想経済についての論争が一気に活発化しました。実際、SL経済の規模が急拡大したことを受けて、昨年9月末には、EUがSL内の商取引に対して付加価値税を課すようになりました。



中国政法大学経済法学院副院長の費安玲教授は、「ネットを利用して経済的利益を得る行為は、過去の伝統的な利益獲得手段とはまったく異なるものであり、それが現実の財産に還元できるというのは財産獲得の新しい方法と言える。この種の財産が物権管理の対象となるならば、公権力は行政管理の手法によってそれを管理できることになる」と述べています。つまり、将来的に仮想財産が物権法の対象と認められれば、その取引から発生する利得は中国でも課税対象となり得るというわけです。

また、前出の姚歓慶教授は、仮想通貨が現実の金融秩序にも大きな影響を与える可能性を指摘し、これに対する監督管理は非常に複雑なものになるだろう、との見解を示しています。


③ネット上での強姦は犯罪か

昨年5月には、SL内で奇妙な事件が発生しました。それは、ある女性アバターが男性アバターを仮想レイプした、というものです。このニュースは、世界の多くのマスコミで取り上げられ、ブリュッセルの司法警察が捜査に乗りだすという事態になりました。

この件に関して、姚歓慶教授はこの種の問題は深く検討する必要があるとし、「SL内での強姦は刑事責任を問えないが、現実の人格への侵害、実際の人格尊厳への影響がないかどうかを考慮しなければならない」と述べています。

一方、中国人民大学法学院院長の王利明教授は、「未成年者の保護、人格権の侵害問題、あるいはネットゲーム上での公序良俗の問題など、様々な問題がある。しかし、ネット環境の下で発生した問題は、実生活に影響を及ぼさない限り、民法による規制を援用する必要はない」との見解を示しています。



④ネット犯罪はどのように規制すべきか

昨年、英国不正対策諮問委員会(Fraud Advisory Panel:FAP)は、政府へ提出した報告書のなかで、「バーチャル・ワールドのユーザーは、いかなる制限もなしに国際間の資金移動が可能であり、かつ、それを捜査されるリスクも存在しない。SLをはじめとしたバーチャル・ワールドは、クレジット・カード詐欺、IDの窃盗、マネー・ロンダリング、脱税など、大きな犯罪の場を提供している」と指摘しました。

こうした問題に対して、深セン市中院執行局の劉来平・副処長は「国家はネットの無形財産に関する違法取引を法律で禁止すべきだ」と提案し、さらに文化部文化市場司の庹祖海・副司長は「国家は法律で仮想財産の取引を禁止すべきだ」と提案しています。

最後に、中国人民大学刑事科学研究センター弁公室の時延安・副主任は、「刑法第285条の規定により、国家規定に違反して国家行政、国防建設、先端科学技術などの領域のコンピューター情報システムに侵入した場合は3年以下の懲役に処することができる。同法第286条の規定により、国家規定に違反してコンピューター情報システムに侵入し、削除、改ざん、書き加えなどを行い、システムの正常な運行を脅かした場合には5年以下の懲役、重大な場合は5年以上の懲役に処せられる。同法第287条の規定により、コンピューターを利用した詐欺、窃盗、国家機密の漏洩などの犯罪行為に対しては、刑法の関連規定によって処罰される」と説明しています。



今回の会議の意味するところは、結局、中国でも仮想経済、仮想通貨、それに関する犯罪行為に関して、どのように対処すべきか、まったく結論がでていないということです。

しかし、より重要なのは中国政府がSLを中心とする仮想世界の存在を真摯な態度で受け止め、その将来性を認めて真剣に議論する姿勢をみせていることでしょう。もちろん、この背景には中国におけるネット犯罪の多発という事態があるわけですが。

翻って、日本政府の対応は先進諸国のみならず、中国にも大きく遅れをとっています。仮想世界の存在さえ無視されたような状況は、中長期的にみた場合、我々にとって決して望ましいことではないように思われます。


◎Fraud Advisory Panel(FAP)のサイト
http://www.fraudadvisorypanel.org/index.html

バーチャル・ワールドに関するFAP報告書プレスリリース
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